大阪高等裁判所 平成9年(ネ)2801号 判決 1998年2月24日
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決の主文一、三項を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文に同じ
第二 事案の概要
次に付加、訂正するほか、原判決の「第三」の「一 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決五頁六行目末尾に「右契約の解除が認められた場合、控訴人は、預託金全額を返還すべきか、あるいは約定弁済期までの間の中間利息を控除した残額の返還で足りるか。」を、同八行目の冒頭に「(一)」を、同行の「入会金」の次に「(預託金六五〇万円及び登録料一五〇万円)」をそれぞれ加え、同一〇行目の「入る。」を「入った。」と改め、同六頁八行目の次に行を変えて次項を加える。
「(二) 控訴人主張の中間利息の控除の主張は争う。本件ゴルフ倶楽部の会則に、その旨の規定はないし、解約によって返還される預託金の額が、その時々で変わるようでは、もはや預託金とはいえない。控訴人は、本件入会契約締結時に、入会金として、預託金六五〇万円と登録料一五〇万円を取得し、預託金については、一五年もの長期にわたってこれを預かり(しかも、右期間は、控訴人の都合で延長することができる。)、預託者には利息を支払わないし、控訴人が得た預託金の運用益も清算しない上、登録料は返還を要せず、取り切りであるという、控訴人に極めて有利な条項になっている。解約による預託金返還によって、控訴人になんらかの不都合が生じるとしても、右取り切りの高額登録料等によって十分填補される。」
二 同八頁五行目の「反しており、」の次に「信義則上も」を、同行目の次に行を変えて次項を加える。
「(三) 仮に、被控訴人の解除の主張が認められるとしても、預託金は、納入後、一五年間経過後に返還することになっているから、金力の預託金は平成一五年八月一〇日に至るまで返還を要しない。しかし、これを早期に返還するべきであるのなら、預託原価六五〇万円につき、被控訴人主張の利率年六分を用いたライプニッツ方式に基づく残期間七年相当の中間利息を控除した四三二万二九五八円を返還すれば足りる。
6,500,000÷(1+0.06)7=4,322,958」
第三 当裁判所の判断
一 前記争いのない事実及び証拠(甲三、乙三の1)によれば、次の事実が認められる。
1 本件ゴルフ倶楽部の正会員となって、控訴人が経営する前記ゴルフ場でプレーをしようとする者は、所定の入会申込みをし、入会が承認されると、控訴人に入会金として、預託金六五〇万円及び登録料一五〇万円を支払うことにより入会手続が完了し、本件ゴルフ倶楽部の正会員となる。
2 正会員は、控訴人に対し、右ゴルフ場の諸施設を優先的に利用する権利があり、控訴人は、右利用を承認する義務を負担するが、同時に、正会員に対し、所定の利用料金の請求権があり、正会員は同利用料金の支払義務を負担する。
3 控訴人は前記預託金を無利息で預かり、正会員は、入会から一五年経過後は退会と同時に預託金を返還請求できる権利を有し、控訴人は、右請求があれば預託金を返還する義務を負担する(なお、登録料については、返還請求できない。)。
右事実によれば、控訴人と正会員との間に成立する契約は、右の各権利義務を包括する債権的法律関係であり、かつ将来にわたって料金を支払ってゴルフ場等を利用していく継続的関係であるといえる。
控訴人は、本件契約が双務契約であることは認めるものの、金力が、その義務である入会金の支払を履行し、控訴人が、本件ゴルフ場の人的物的諸施設を完備する義務を履行したから、本件契約上の債務は既に履行が完了しており、破産法五九条一項の適用はないと主張する。しかし、本件契約の本来の目的は、本件ゴルフ倶楽部の正会員になって、将来にわたってゴルフ場等の施設を継続的に利用することにあると解され、入会金の支払は、正会員になるための手続に過ぎず、入会金を支払ったことで同契約が完結するものではなく、正会員となって後に、ゴルフ場等を利用させる控訴人の義務とこれを利用した場合に、利用料金を支払う正会員の義務とが対価的関係に立つものであり、本件破産宣告当時、これらの義務はともに履行が完了していないものと解されるから、控訴人の右主張は失当である。
二 したがって、被控訴人は、破産法五九条一項に基づいて本件入会契約を解除することができるものと解することができる。
控訴人は、随時の預託金返還を認めると、本件ゴルフ倶楽部全体の維持運営に重大な支障を来すから、本件入会契約、本件ゴルフ倶楽部会則、同約款には、会員の個別経済的事由などによる随時の預託金の返還を認めておらず、このことは会員が破産した場合も同じであって、破産法五九条による解除は無効であると主張する。控訴人が、預託金を運用してゴルフ場等の諸施設の設置、維持管理に当たっていることは容易に推認されるが、破産の場合は、破産手続の終結を迅速にすることが要求され、同法五九条は、双務契約の場合は、破産者と相手方との各債務が対価関係にあることを尊重しながら、右の迅速処理の要求を実現するべく規定されたものであって、他の法律でこれと異なる定めがある場合はこれに譲るが、規定がない場合は、破産法五九条が適用され、本件の場合、これを不当とする事情は窺えない(一般に、いわゆる預託金会員組織のゴルフ倶楽部では、相当多数の会員がおり、倶楽部の維持運営に支障を及ぼすほど多くの会員が破産宣告を受けることは現実には起こり得ない。)。よって、被控訴人の解除は無効であるとの控訴人の主張も理由がない。
三 そうすると、控訴人は、被控訴人に対し、解除による原状回復として、預託金六五〇万円及びこれに対する解除の日の翌日である平成九年三月二〇日から完済まで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金を返還すべきである。
控訴人は、本件ゴルフ倶楽部会則によれば、預託金は預託した時(本件では、昭和六三年八月一〇日)から一五年間据え置くことになっているから、本件預託金の返還時期は到来していない、即時の返還を認める場合は、七年分の中間利息を控除すべきであると主張する。
しかし、被控訴人のした解除は、右会則によるのではなく、破産法五九条一項によるものであるから、控訴人の右主張は採用できない(本件解除によって、控訴人が損害を受ける場合は、破産法六〇条によって対処すべきである。)。
第四 結論
以上の次第で、控訴人の本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、民訴法六一条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松尾政行 裁判官 熊谷絢子 奥田哲也)